黒い右腕
1日もすると、右腕全般が腫れてきた。
どうやら爪楊枝で刺したところから細菌が侵入したらしい。
症状はどんどんと重くなる。
もはや、肘も曲がらないほど腫れ上がっている。
傷口が膿んできた。
看守に絆創膏をもらい傷口に貼る。
そのときの口実は、「手首を虫に刺された」から。
もちろん違う。しかし当番看守は、わたしの悪事を知らない。
腕の色がどんどんと黒くなってもはやドス黒い。
ごはんもほとんど食べない。栄養状態だって悪い。
身体の抗体も落ちているからだ。
朝夕の看守の点検では、右腕を隠し点検したことで、事象に気が付かれなかった。
ある日の夜中、傷口が疼き出し痛みがひどくなった。そして決定的だったのは、
傷口から血が噴き出してきたのだ。こうなると絆創膏なんて全く意味をなさない。
それこそ松旭斎なにがしによる水芸マジックがごとく噴き出す血。
大げさではなく、自分でも止められない。
ほとばしる血。それも赤くない、黒い血なのだ。
そして、お袋が死んだときにしたにおい。
お袋も死ぬ間際に黒い血を吐いて死んでいった。
死臭とでもいおうか。強烈なイヤなにおいが部屋全体に充満した。