Partly cloudy with rain

奈落の底からサラリーマン。何とか部長をやってます。

爪楊枝

次に行ったのは、爪楊枝。

房の中には、当然常備されていない。

嫁に爪楊枝の差し入れをしてもらい、必要な時に「申し出」によって部屋に入れてもらえたはずである。

一束を部屋に入れてもらい、終わってから返す。

返すときに数本隠し持つ。

ガーゼの紐もそうだが、今考えれば無茶なことだった。

 

爪楊枝の先を右腕の手首に刺す。

血を出したいのだ。それも大量に。

手首の青く通る線の上(静脈)目掛けて楊枝を刺す。

3分の2ほど埋まった記憶がある。それを何度も。

そして左手の手首、肘の静脈に対して。

血は出る。だがすぐに止まってしまう。

問題男のわたし。

わたしの房は看守の仕事場の隣りのようだ。

 

夜も深けたある日。

減灯といって寝るときは真っ暗にならない。

少しの明かりの中で、わたしの行動。

隣りの看守の声が聞こえる。

「あの野郎っ」

「いいからほっとけ」

小さく聞こえてくる、二人の看守の会話のようだ。

 

手首を切ったからと言って人は死ねない。

正常な人間ならば、血液は凝固し止血してしまうからだ。

そういうことで「ほっとけ」になったのだろう。

ただ、次の朝に看守からは、「次にやったら保護房だぞ」と言われた。

保護房?

始めて聞く名である。

 

保護房とは、わたしのような自傷行為を繰り返す問題野郎や、

言うことを聞かない、暴れまわる、壊しまくる人が入れられる房の事。

実際にわたしがお世話になったことはないが、聞くところによると

房の中は監視カメラは当然、四方をクッションで柔らかくし、トイレと水場以外は何もない部屋だとういう。

ラジオも聞こえないし、下手をすると戒具で身体を縛られ、手足の自由もはく奪され、ごはんは、犬のように食さねばならないと聞いた。

今でこそ、とんでもないと思いこそすれ、当時は頭がイカれていたのか、あまり考えてもみなかった。