Partly cloudy with rain

奈落の底からサラリーマン。何とか部長をやってます。

脱出マジック

診察が来た。

慌てて施錠しようとしたが間に合わなかった。

が、革手錠の鍵は靴下に忍ばせた。

診察が始まると革手錠が外れていることに気づく。

看護師が言う「なんで外れてるの?」

そう言うと改めて施錠をされた。

施錠をする際は鍵の必要はない。

鍵が壁にないことにも気が付いていない。

このときは事なきを得た。

次の診察時。

一度は「まずいな」と思ったわたしは、改めて開錠することをためらった。

「次はバレる」

そう思ったからだ。

しかし自由の甘美は忘れられなかった。

「少しだけ」の気持ちで開錠していた。

そして、点滴の効果か、リラツクスができたようで、

私は眠りについてしまったようだった。

夢を見ているようだ。

渋谷の町のどこかの丘の上。

震災か何かがあってわたしは高齢者の救助に向かっている。

一人の老人を抱きかかえる。

「大丈夫ですか?こっちです」

手を取り移動する。

ただ、何かがジャマなのだ。

下腹部に手をやる。

「これがジャマで自由に逃げれない」

下腹部をいじっているのは尿管カテーテルを外そうとしていたようだ。

尿管カテーテルは器具がないと外れないのだ。

それを一生懸命引っ張っているようだ。

また、足が自由なおかげでわたしは立ち上がって部屋の中を歩いている

ようだ。夢遊病者のように。

そして、ぶつぶつ言いながら、ベットを引きずり歩きながら、カテーテルを引っ張っている。

そこでわたしは我に返った。

わたしの前には看護師たちと大勢の看守と警備隊。

集中治療室でわたしは取り囲まれている。

わたしはまだ、「助けなきゃ」と言っている。

看守は「分かったからベットに寝ろ!」という。

看護師は言う。

「また外れている。君はマジシャンか?」

引田天功を想像したのだろうか、脱出マジック。

その通りだ。囚われの身なのに毎回スルりと手錠を外しているのだ。

しかしマジックには種がある。

ゆるく入っていた靴下の中にあった鍵がタイミング悪く床に転がってしまった。

種明かしをされた看護師は「なるほどそういうことか」

そのあと、地獄が待っていた。

前に書いた「戒具」を身体中にされてしまった。

胴体部。コルセットのような形。生地は柔道着を厚くしたようなもの。

蒸れようが痒かろうが関係ない。

不自由な右手も手錠。

左手も手錠。左足もだ。

当初の不自由さがかわいいくらいに拘束をされてしまった。

これでまた、終わりのない地獄が始まってしまった。

100万円あげるからこのボタンを押してみないか?

無の5億年を過ごす地獄。

そのころ、こんな話は知らなかった。

最近この話を知り、拘置所での集中治療室での無の地獄を思い出してしまった。