Partly cloudy with rain

奈落の底からサラリーマン。何とか部長をやってます。

ガーゼ

理由は、忘れてしまった。

部屋“房”には、ガーゼが入っていた。

少し大きめのガーゼである。

それが2枚だったか、入っていた。

房の中にいるときは、とにかくやることがない。

長いもの、紐状のものもない。

求刑7年。落ち着いてもいられない精神状態。

ウロウロと狭い部屋を歩き回る。

そしてやることがないといろいろと、仕出かす。

そして何もないと人間、思いもよらぬものを作り出す。

まず看守の見廻り。

おそらく15分ごとに見廻っている。

もちろん、房に時計の類などないのだ。

昔、教わったことがある。

「01、02」(れーいち、れーにー)と数えると

だいたい1秒、2秒になることを。

それを実行し15分ごとの見廻りであることが分かった。

 

ガーゼを端から帯のように割く。

時間があるので上手に割ける。

いくつもの帯を作るのだ。

次に作った帯をこよっていく。

1つ、2つ、いくつもこよっていく。

すると細い紐のようなものができる。

しかし、このままでは細いし短いだ。

そしてそれぞれこよったものを一束にしてこよっていく。

これを何度も繰り返しそれぞれを縛ると、人を支えられそう?な紐になった。

今思えば、わたしの体重を支えられるほどでもないし、長さも足りないに決まっていた。

でも何かしていないとおかしくなりそうだ。

とにかく「死」に近づける考え行動するだけで少しだけ落ち着いた。

監視カメラはある。

当番の看守は1~2名。

このフロアすべての映像を常に見てはいまい、そんな勝手な思いでいた。

15分こどの見廻りを縫って、これもどうやったか、もはや記憶が定かでないが、

天井にあったスピーカー(鉄板に細かい穴が無数にあるもの)に先ほどの紐を通し

自分が首をくくれるほどまで準備ができた。

そんなものしかぶら下がるようなものはない。というか、これもかなり無理がある。

簡単に書いているが、何度も何度も失敗はしたのだ。

それでも死にたい気持ちと、やることがない手持無沙汰、不安感から

そこまでたどり着いた。

今思えば、そんなことで死ねるわけもなく、看守もモニターを見ながら「何をバカなことやってんだ」と

笑っていたかもしれない。

しかし、こちらは真剣だし、これで死ねると確信している。

 

見廻りの合間を見て、首を吊ってみる。

死の合間までは裁判所で体験済みだ。

体重を紐にかけてみる。

あっさりと紐が切れる。

当たり前だ、ロープではないのだ。絶食していたとはいえ体重は80㎏くらいはあっただろうか。

 

あえなくこの方法は、未完に終わったのである。