Partly cloudy with rain

奈落の底からサラリーマン。何とか部長をやってます。

絶望

わたしはこの時の記憶があまりない。
ただ、この裁判は初公判であり、初公判なのに求刑があり、次回で結審すると

いうことは分かった。
裁判は時間がかかるものと勝手に考えていたが、それほどまでにシンプルな事件と

言うことだろうか。
時間にしておそらく10分程度。

若い検察官は、何かを話している。

状況、被告人は悪い奴だ、お父さんを思うと、など。

弁護士は言葉少なだ。

話したこともない若い検察官に何が分かるものか、

そんな考えを持ってしまっていた。

そして若い検察官は、わたしに求刑をする。
罪名は、「傷害致死罪」「求刑は7年」
絶望だ。
人生が終わったことは親父が死んでからそう思っていたが、改めて終わりを

突きつけられたようだ。
次の裁判は1ヶ月後と裁判官に告げられ閉廷した。
わたしは腰縄をされ手錠をされ、ヨロヨロと部屋を出された。
自分では足に力が入らないようだ。
両脇を力強く看守たちに支えられ元いた部屋に戻された。
また無音の時間を過ごす。
閉塞感。不安感。そして絶望がプラスされた。
拘置所にはバスにまとめて乗せられおそらく夕方以降に帰らされる。

わたしは、着ていたフリースを脱ぎ、腕の部分を首に回し強く締め付けた。
留置場にいた時に、電気工事で窃盗をした人に聞いたことがある。
自身の父親は、自殺した。座ったまま首に紐を巻き付けて自殺した。
首吊りはぶら下がらなくても死ねるのだと。

頸動脈が閉まってきたのだろう。辺りが暗くなってきた。
頭に血が上っているように圧迫されてくる。
意識が遠くなってきたことも分かる。
何かキラキラとしてきた。
そのまま意識が抜けかけたのか、床に突っ伏した。
抜けかけの意識で力が抜け、そして突っ伏した衝撃で意識が戻る。
大きな音がしたのだろう。看守が飛んできた。
そしてわたしは、そのまま別の車に単独で乗せられ、拘置所へと戻った。
裁判所で自殺者など出されたら迷惑なのだろう。

わたしは拘置所に戻ったが、部屋を変えると言われた。
言われるがままだ。
新しく当てがわれたのは、やはり単独の独居房。
一見前と同じ部屋だ。
しかし天井には、監視用のカメラが覗いている。
そして、今まで部屋に備え付けられていたプラスチックの食器類、テーブルなどは
外に出された。
代わりに、段ボールの箱、そして紙の食器類。
自殺予防なのだろう。

とても惨めな感覚を覚えた。

拘置所や刑務所は、入ってきた状態と同じ状態で出すことが基本なのだとあとで聞いた。

これから死にたいわたしと死なせない看守の戦いが始まる。