Partly cloudy with rain

奈落の底からサラリーマン。何とか部長をやってます。

鉄格子

腰縄と手錠をされたまま、廊下のその先に薄暗く鉄格子がみえてきた。

制服を着た警察官はジャラジャラと音を立てて鉄格子を開けるための鍵を探し出した。

いわゆる錠を開ける立派な鍵に見えた。

ほどなく鉄格子を開ける。わたしは制服警官2人に挟まれ鉄格子をくぐる。

後方で鉄格子が閉まる。

前にはもう一つの鉄格子。

対策のため二重になっているのだ。

その扉もくぐると別室に通された。

蛍光灯1本、スチール製の灰色の机。灰色の椅子。

そしてゴザが敷いてある。

持ち物検査と身体検査の場所らしい。

身につけているものを全てゴザに置く。

時計、着衣。

パンツまで脱げと言う。

荷物以外にも身体をくまなく検査する。

屈辱的な場所、ポーズを強いられる。

「お前は犯罪者だっ!」

そう言われているようだった。 

いろんな気持ちを殺させる場所なのだろう。

わたしは、わたしの心は既に半分死んでいたのであまり

関係なかったかもしれない。

ふただび服を着るが、“長いモノ”は一切持ち込めない。

金属の類もだ。

 


しばらくするとわたしを移送するという。

所轄の留置場が現在、一杯のため一晩別の警察署に移送するというのだ。

わたしは、車に乗せられ目的の警察署に移送された。

そこでいわゆる“雑居房”と言われる複数人で寝泊まりする部屋に通された。

四畳半位だろうか、長方形の部屋。

汚い絨毯。冷たいコンクリートの壁。鍵のつかないトイレ。上半分が透明なアクリル板になっているトイレ。

 


部屋に入ったときには既に消灯時だったようだ。

数名が布団に入っている。

どんな人なのか、全く分からない。

自分も別室から布団を持ち込み、空いている場所に布団を敷き、床に入る。

消灯なのに関わらず、“減灯”といって全く暗くはならないようだ。

部屋の扉にはノブもない。

自分からは決してこの部屋から出られないのだ。

閉塞感、絶望感、悲しい、苦しい。

眠れるわけもない。いろいろな想いがグルグルと回る。

 


朝になったようだ。

あらかじめ用意された小鳥のさえずり音がなる。

起床の合図のようだ。

わたしの部屋にいる人々。

そして他の部屋部屋の人々。

小鳥のさえずりとともにけたたましい勢いで起きだし、それぞれが次の準備をするようだ。

それは地響きのようでもあった。

 


起きてきた同部屋の人々。日本人は一人もいない。しかし日本語は話せるようだ。

ある意味、恐怖心を抱いているわたし。

何もかもが初めての体験。

「やくざモンの怖い人はいないか」「威圧的なひとはいないか」など。

しかし、同部屋の人々は、わたしを見ると同様に笑顔をみせる。

手順も教えてくれるのだ。

生気もやる気もないわたしだが、片言の日本語で教えてくれた。

「起床」→「布団をたたむ」→「扉が開く」→「納戸に布団をしまう」→外にある洗面台で「洗顔と歯磨き」→

「部屋に戻る」→「箒、雑巾を持って掃除を始める。同時にトイレ掃除もする」→「ゴミを出す」→「施錠される」

「部屋の人々は一列に座り静かにする」→「遠くから声が近づいてくる」点呼を取っているようだ。

「〇室、〇名、番号!」

手元の台帳を見ながら警察官(看守)が言う。

「イチ、ニー、サン、シ」

部屋に座る人が右から順番に番号を言う。

わたしも習って、次の番号を言う。

 


「〇室、〇名!、以上ナシ!」

看守が言い、隣りの部屋へ。

 


点呼が終わる。

しばらくすると鉄格子にある小さな窓が開く。

食パンが配られる。ひとり2枚のようだ。

そしてジャムが配られた。

これがここの朝食のようだ。

 


食している最中、鉄格子の小窓からヤカンの口が差し出される。

希望するものは、プラスチック製のコップを出す。

すると白湯が注がれる。

 


わたしは、食欲もない。なんの気力も出ない。

一切の食事をせずにこの時間を過ごした。

 


そして点呼以外、私が言葉を発することはなかった。

 

次回、隔てるアクリル