Partly cloudy with rain

奈落の底からサラリーマン。何とか部長をやってます。

愛しさと切なさと


新しい街並み。

JRの広い用地を再開発した街。

新しい形をしたモダンなビルがいくつも立ち並ぶ。

そんなところにわたしの勤める会社はある。

都会の中心。サラリーマンの聖地などと呼ばれる場所。

たくさんの人々が行きかう。

先進的なオフィス。おしゃれなビル。有名な飲食店。

あちこちにある有名な会社。

華やかな仕事。

自分が仕事のできる何者かになったような感覚を覚えてしまう。

 


2回目の検事調べ。

地方検察庁までのバスの道のり。

様々な警察署に寄ること。そしてカーテンの隙間から見える少しの景色。

だいたいが見慣れた土地なのでカーテンの隙間だけでも、どのあたりを走っているのかが分かる。

 


2回目の検事調べは前回と打って変る。

検事が優しくたしなめるのだ。

わたしは「これが彼らのやり方で容疑者から優位に話を聞き出す手なのだ」と悟った。

わたしがした事件は、正直、わたしと親父にしか分からない。

そして、親父は死んでしまった。

だから客観的な証拠は積み上げられない。

あっても嫁の証言のみであろう。

「わたしは本当のことを話している」と言ってもどこまでが真実なのかは分からないのだ。

「殺してやる」と言って死んでしまえば「殺人罪」だ。道具を使っても殺人罪

検察官は、より重い罪にしたいのだろう。

それが、死んだ人や被害者家族への弔いなのだ。

しかし、わたしと親父、家族との関係や真実。検察官に何が分かるのか?

「お父さんは悲しんでいるよ。許されてないよ。」などと言っているが、

親父が死ぬ間際のわたしと親父とのやり取りまで知ってのことか、

 


そんな話はおくびにもせず、黙って聞いていた。そして泣いていたが、

正直、心の中ではそんなことを考えてしまっていた。

検察庁から出るときはすっかり日も落ちている。

検察庁は会社の近くにあることも承知している。

バスは出発する。

流れているであろうカーテンからの夜の帳、そして光の街並み。

両手錠された手で少しだけカーテンを持ち上げて外を見る。

「会社だ」

クリスマスのイルミネーション。

もうすぐクリスマスなのだ。

流れる雑踏。

わたしが過ちを起こさねば、わたしはこの雑踏のひとりになっていたかも知れない。

そして、走り去る一瞬の護送車など気にも留めていないであろう。

そんなことを考えてしまった。

その途端、そこはかとなく苦しく切なく悲しくなってしまった。

子供たちに会いたい。嫁に会いたい。。。。